コラム

2025.02.04

乳がんの進行速度、転移のスピードについて

回答

乳癌の多くは進行が遅いため、適切な乳癌検診を受けてさえいれば早期発見・早期治療により根治が可能です。
しかし、中には進行が速く、急速に転移していく悪性度の高い乳癌があるもの事実です。

解説

一般的に乳癌は進行が遅い癌であり、1つの癌細胞が発生してから1cmの大きさになるまでに5年程かかります。それほど進行が遅いため、乳癌検診は2年に1回でよいとされています。
しかし、乳癌の中には進行の速いタイプが一定の割合であることが分かっています。triple negative(トリプルネガティブ)やHER2(ハーツー)陽性と呼ばれるタイプの乳癌は増殖スピードが速く、中にはたった1年で数センチまで増殖して、脇のリンパ節にまで転移してしまうこともあります。triple negativeは乳癌全体の10%で、HER2陽性の乳癌は全体の20%ですので、進行の速い乳癌は決して稀ではありません。

この2つのタイプに対してはここ数年で専用の薬が次々に開発されていて、再発を防ぐための治療薬として乳癌の術後の患者さんにも使用されており、十分な治療成績が認められています。つまり、「進行の速い乳癌=予後が悪い」ではなくなってきているということです。
乳癌は脇のリンパ節までの転移であれば十分に根治が可能ですが、それを超えて肺や骨に転移してしまうと根治はできません。これは乳癌のタイプに関係なく、全ての乳癌に共通しています。
つまり、進行の速いタイプの乳癌であっても毎年の乳癌検診を継続することで早期癌のうちに発見してしまえば根治できるため、毎月のセルフチェックと毎年の乳癌検診を欠かさないことが重要です。
当院でも、全くの無症状の方で、毎年の乳癌検診で偶然1cmのtriple negativeタイプの早期乳癌を発見して、手術と術後治療により根治に近づいている患者様がたくさん通院されています。

なお、「若い人の乳癌は進行が速くて、高齢者の乳癌は進行が遅い」と思われている方が多いですが、確かにそのような傾向はありますが、はっきりと言い切れるほどの差はありません。70歳の方でも1年前の検診で何も異常がなかったのに、今年の検診で2cmの乳癌が見つかることは実際の臨床の現場では普通にあります。

まとめると、乳癌の中には進行の速い(増殖スピードの速い)タイプの乳癌が約30%あるため、これを見逃さないために毎年の乳癌検診を継続することが大事。進行の速いタイプの乳癌であっても、治療薬が進歩したこともあり、早期癌で発見すれば十分に根治が可能。ということです。
乳癌のタイプは乳癌の診断とともに病理検査で測定されていますので、主治医の先生に聞くのを忘れないようにしましょう。