コラム

2025.02.04

乳がんの治療に要する入院期間(休職期間)と治療中にやってはいけないこと

回答

入院手術は4~9日間が目処です。この期間だけはお家のことはご家族の方に任せなければいけませんし、職場の方々のご理解も得られなければいけません。
術後の治療は原則的に仕事と両立しながら継続していくものですし、それが可能です。乳癌の治療を理由に仕事を辞める必要は一切ありませんし、職場からの不利益を受けることもあってはいけないことです。

解説

乳癌と治療されてからの治療の流れは、まずは入院手術、その後に術後の放射線治療や薬物治療(ホルモン剤・抗癌剤)という流れです。
手術に要する入院期間は、乳房温存手術(部分切除)であれば3~4日で、全摘(乳房切除)の場合は7~9日です。手術の前日に入院して、翌日に手術という病院が一般的です。
入院期間中も、手術自体はお腹を切ったりするような大手術ではないため、手術の翌日にはリハビリを兼ねて自分で歩いて移動できますし、ご飯も自分で食べられます。
退院後は激しい運動や重労働は1ヶ月は控えて頂きたいですが、デスクワークなどであればすぐにお仕事を再開しても問題ありません。家事・炊事はご家族の方が手伝ってあげてください。

手術後の治療は、放射線治療は3~5週間、土日を除いて毎日通院です。1回2~3分で終わる上に、髪の毛が抜けたりきつくなったりなどの副作用もないため、お仕事との両立が十分に可能ですが、とにかく通院が大変です。家や職場からの往復の通院時間を考慮すると、毎日1時間~1時間半は費やすことになるため、遅出や早上がりなどを職場と調整することが必須です。しかし、これを理由に職場から不利益を受けることは今の社会ではあってはならないことです。放射線治療の開始時期や期間は主治医から事前に必ず説明があるため、お勤めされている職場へ前もって相談しておき、しっかり話し合った上でお仕事と両立されてください。

術後の薬物治療では、ホルモン剤は大きな副作用はありません。内服薬なら毎朝1錠の内服で、注射薬なら3ヶ月に1回の注射です。最も多い副作用としてホットフラッシュがありますが、お仕事を休んだり辞めたりされる方はまずいません。
乳癌の治療において日常生活やお仕事に最も支障を与えるのは、薬物療法の中の1つである抗癌剤です。
抗癌剤は2~3週間に1回の点滴を8回繰り返す投与方法が一般的なため、4~6ヶ月かかります。この期間中は100%髪の毛が抜けるため、ウィッグ(医療用のカツラ)やニット帽を準備しておくことが必須ですし、だるさや吐き気の副作用も高頻度で起こるため、どうしてもきついときは仕事を急遽休んで自宅で安静にしておかなければいけない日もあります。ただし、治療期間中でもきつくない日数の方が多いことが一般的であるため、お仕事と両立することは十分に可能です。
基本はお仕事を優先し、どうしても休まないといけない日は「有給休暇」や「会社独自の休暇制度」を利用して自宅療養しましょう。近年では労働契約法で定められている「雇用主の安全配慮義務」が重要視されているため、「治療をしながらでも今の仕事を続けたい」という意思に対しては最大限の配慮を行わなければいけない社会になっています。稀に副作用が前面に出てしまって長期間休養しなければいけない患者様もいますが、その場合は傷病手当制度を利用すれば問題ありません。最大で1年半の間、給与の3分の2が毎月給付される上に、会社側の費用負担が発生することもありませんので、必要な場合はしっかりと活用してください。
これらの相談は主治医の先生や看護師さんではなく、社会福祉士(ソーシャルワーカー)が担当することが一般的です。病院であれば、がん相談支援センターや地域連携室に常駐しているため、相談に行かれるとよいでしょう。

治療期間中に避けなければいけないことはそれほど多くありません。
手術や放射線治療に際しては特別な注意点はありません。感染症にかかって治療が延期・中断してしまわないように気をつけることくらいです。
ホルモン治療中は妊娠は禁止です。ホルモン剤は胎児に対して流産や奇形のリスクがあることが分かっているため、治療期間中は妊娠は避けてください。
抗癌剤治療中は副作用により免疫力が低下する時期が周期的にあるため、生ものと人混みは避けておいた方がよいです。

参照)日本乳癌学会 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版
https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/002-2/q11/